渡邉崇

苦しみを突き抜け、珠となす
苦徹成珠の信条で「人の心を動かし続ける」、トランスヒューマン 渡邉社長の軌跡
「小さな求人広告でも、人生を変える力がある」
そう語るのは、株式会社トランスヒューマン代表取締役 渡邉社長。
求人広告の世界に身を投じてから約30年、常に“人の可能性”に光を当て続けてきた。
その原点には、幼少期の虐待やいじめ、社会に出たあとの孤独や葛藤、そして“言葉”に人生を救われた経験がある。
苦しみを突き抜けて──「苦徹成珠」に込めた意味
座右の銘は「苦徹成珠(くてつじょうしゅ)」。
苦しみを徹し抜いた先にこそ、珠(たま)=輝きが生まれるという言葉である。
渡邉社長の原体験は、決して順風満帆とは言えなかった。
小学校低学年の頃には、今思えば学校の先生からの虐待ともいえるいじめを経験した。しかし子どもながらに“これも教育の一環だ”と自分に言い聞かせ、平然と乗り越えた。受け止め次第で全てが決まる。自分の心の拠り所は自分で作る。そんな少年だった。
さらに高学年になると、今度は上級生から攻撃を受ける。その時も、「なぜ人はそのような行動を取るのか」「どうすれば人を動かせるのか」と問い続けた。やられてばかりでは面白くない。自分なりの方法で状況を変えてやろう──そう心に決めた。
さるかに合戦のように、真正面からの対決ではなく、頭を使い、周囲を巻き込みながら状況を打破した。その後、自分をいじめる子供はいなくなり、気づけば自分がリーダーになっていた。
この“人の心を動かす思考”が、のちの「広告」という仕事に直結していく。
高卒・引きこもり・フリーター──キャリアのスタート地点
高校卒業後、パニック症候群を患い、半年間の引きこもり生活を送る。
日雇い労働やアルバイトを転々とし、生活のために手にしたのがリクルートの求人広告制作アシスタントの仕事だった。
「とにかく働かなきゃいけない。それだけでした。」
しかし、この“とにかく”で始まった仕事が、人生を変える。
初めての上司は、有名なコピーライターだった。
彼のもとで徹底的に「言葉で人を動かす」ことの意味と力を叩き込まれた。
「求人広告というのは、単なる業務説明じゃない。“この仕事を通じて、どんな人生が始まるのか”を描く仕事なんです。」
ある日、小さな求人広告を通じて入社した方が、何年もその広告の切り抜きを財布にしまっていたことを知る。
「辛いとき、この広告を見返して初心に立ち返ってるんです。」
その一言が、渡邉氏にとって“原点”となった。
スキルの限界に直面し、夜間大学へ進学
30代、順調だった社会人生活に、ふと“限界”が訪れる。
「自分のスキルや経験だけでは、もう上に行けないのではないか?」という不安が、彼を夜間の法政大学文学部へと導いた。
仕事と両立しながら卒業、さらに大学院へと進み、政策科学研究科の修士課程も修了した。
「夜のキャンパスで学ぶ中年は、正直浮いていました。でも、やるしかない。知識の限界を突破しないと、見える世界が変わらないと思ったんです。」
独立と組織の壁──「仕組みは既製品じゃない」
2002年、フリーランスとして独立。
企業から直接仕事を受け、順調に事業を拡大していった。だが、仲間が増えるにつれ、組織としての仕組みが求められるようになり、社内からの反発も生まれた。
「人は“既に用意された答え”を求めがちです。でも、僕がやってきたのはゼロから生み出したオリジナルな解決策なんです。真似事で人は動かせないと思っています。」
そんな中でも、貫いてきたのが“圧倒的な当事者意識”。
たとえば、ある飲食チェーンの採用コピーを手がけたときには、実際に数ヶ月間バイトとして店舗に立ち、その現場感をコピーに落とし込んだ。その広告は、店舗の現場スタッフからも「まさにこれが私たちの仕事だ」と共感を呼び、大きな話題となった。
「採用は様々な人生を変える」──これからも、光を届ける存在に
現在は、株式会社トランスヒューマンの代表として、人材採用・広告制作・地域活性など多領域で活躍。求人広告だけでなく、地域に根差したシンポジウムや人材育成モデルの立ち上げなど、“人と社会の循環”をテーマに活動している。
「学歴や経歴で人を判断する時代はもう終わっています。社会が本当に求めているのは“その人にしかない何か”です。広告は、その一歩を踏み出す背中を押せる力を持っているんです。」
若者へ──ブルーオーシャンは、誰も見向きもしない場所にある
「僕も20代、30代はキャリアの展望なんて描けなかった。とにかく目の前を生きるのに必死でした。」
そんな渡邉社長が、今の若者に贈る言葉はシンプルだ。
「誰も挑んだことがないこと。周囲から“無理だ”と笑われること。それは、まだ誰も足を踏み入れていない証拠です。
そこにこそ、ブルーオーシャンが広がっています。
一歩踏み出せば、あなたの想像を超える景色がきっと待っているはずです。
そして、僕はそのように挑戦する人を一人でも多く増やしたい。そのために、これからも全力で仕事を続けていきます。」